2013年4月12日金曜日

吉成小学校6学年「みんなの元気が出るマガジンを作ろう」

 吉成小学校6年生82名は、津波で被災した仙台市沿岸部の仮設住宅や、歴史的建造物が被災した仙台市内陸部の堤町地区の現場に行き、住民への取材や復興活動の体験を通して、復興に向けて頑張っている人達の思いや課題を地域に発信していくマガジンづくりに取り組んでいました。学校からこの内容を深めるための活動について相談された建築と子供たちネットワーク仙台は、10月下旬からお手伝いすることになりました。


「被災地を実際に見ないとはげませません」
被災された立場で渋谷さんに原稿を見ていただこう
20121031日(水)
 この日、6328名の子どもたちは、生活科と総合的な学習の時間に関する研究授業で30名を超える他校の先生たちに囲まれて緊張していました。
 この授業では、これまで取り組んできたマガジンづくりの途中経過を発表し、それに対して、ネットワーク仙台の渋谷セツコさんから感想を言ってもらい、よりよいマガジンづくりに取り組んでいこうというものでした。渋谷さんは、亘理町の自宅が津波で壊れた被災者でもあり、そうした立場からの率直な意見もほしいということでした。
 
「ここは田んぼだったんだよ」と萱場さん
 はじめに、渋谷さんが、ノーベル賞を受賞した山中教授の「人間は失敗からしか学べない」という言葉を取り上げ、「山中教授ってとてもいいことを言ったね」そして、「このマガジンでは元気が出ません。自分たちでできる励ましを考えてみて」と言いました。後日の子どもたちの感想を見ると、渋谷さんにダメ出しをされたことで発奮したというようなことが書かれていました。子どもたちは失敗から学んでやる気を出したのです。
 その後、吉成小5年生の図書箱を東六郷小に贈る活動、台原小などの子どもたちの堤町登り窯での修復活動、南材木町小3年生の旧丸木商店の格子壁のデザイン活動など、子どもたちが取り組んできた震災復興活動のようすや、仮設住宅には農家の人達が多く住んでいること、周辺の畑が復興している状況などを話しました。こうしたプレゼンテーションのあとに、これからどんな活動が必要と思うかをポストイットに書きだしてもらったところ、「もう一度現場を見に行く」「農家の人の話を聞く」「野菜をもとにしたものを作りはげましたい」などの積極的な意見を引き出すことができました。
元気に育った仙台白菜
 これらの子どもたちの意見をもとに、被災農地で話をしていただける農家の方を探したところ、荒浜地区の畑で仙台伝統野菜を栽培している萱場哲夫さんのご協力をいただけることになりました。後日、6年担任の先生たちと打ち合せ、1126日に萱場さんの畑を中心に被災地の現場を見るバスツアーを行うこと、萱場さんが育てた野菜などを観察してデザインすることにより野菜の生命力や農家の人たちの農業復興への願いを感じてもらう学習を行うことになりました。

南蒲生浄化センターの被災状況を聞こう
20121121日(水)
南蒲生浄化センターの被災状況を話す鈴木さん
 26日の被災地訪問では、荒浜地区や東六郷地区とともに、南蒲生浄化センターがある南蒲生地区も巡ることになっています。その前に、長く下水道行政に携わり、現在は下水道アドバイザーとして全国各地で南蒲生浄化センターの被災状況や下水道処理施設の震災対策について講演活動を行っている鈴木健治さんより、南蒲生浄化センターの被災状況を聞くことになりました。南蒲生浄化センターは、仙台市の汚水の約7割、日平均で約32万㎥の下水処理を担う下水処理場であり、吉成小学校の汚水も処理しています。津波が押し寄せたとき、地域住民や職員等101人が管理棟の4階屋上に避難し全員が助かったこと、主要な施設設備に壊滅的な被害を受けましたが、簡易処理(沈殿と消毒)で一日も止めずに処理機能を動かしたこと、現在は微生物を使った高級処理を行っていますが、本格的な高度処理を行うためにはあと45年かかることなどを話していただきました。海を目の前にしたこの環境で犠牲者をひとりも出さなかったことに驚きましたが、それは日ごろから宮城県沖地震に備え対策を考えていたからであり「最悪に備え、最善を尽くす」ことが防災対策に重要であることを子どもたちに訴えました。古楽器リュートの奏者としても知られる鈴木さんは、震災後、仮設住宅、学校、病院などでボランティア演奏をされているそうです。授業の最後にそのリュートを奏でていただきました。はじめて聴く繊細で美しい音色に子どもたちは魅了されたようです。
リュートの調べに聴き入る子どもたち

もう一度現場に行こう
20121126日(月)
 この日は3クラス合同で被災地を訪ねました。はじめに向かったのは昨年度図書箱を贈った東六郷小学校。今、東六郷小学校の子どもたちは六郷中学校を間借りして学んでいます。窓ガラスが割れたままのだれもいなくなった校舎はさびしそうに佇んでいました。学校の隣にあるコミュニティセンターも人の姿はなく、枠が曲がったままの出入り口や、2mぐらいの高さに津波の痕跡がある壁などが津波のすさまじさを物語っていました。
 その後、櫛の歯が抜け落ちたような松並木、ぺしゃんこになった車の山、被災した荒浜小学校などを車窓から見ながら、荒浜地区の萱場哲夫さんの畑に向かいました。萱場さんは仙台白菜や曲がりネギなどの仙台伝統野菜の栽培に力を入れています。この畑も震災後1年を経過してようやく作物が作れるようになったそうで、訪れたときには白菜やネギがまもなく
収穫をむかえようとしていました。小ぶりで可愛い仙台白菜の隣には、いつも店で売っている大型の白菜が並んでいます。
子どもたちはこんなにも大きさが違うのかと両方を見比べていました。萱場さんは、津波をかぶった畑でも野菜が立派に育っていく様子を見て植物の力、野菜の命を感じたそうです。次に萱場さんが案内してくれたのは畑の隣にある田んぼでした。ここは、表土が剥ぎ取られ除塩が終わったということですが、足で掘ってみるとどこまでも砂だらけの土なのです。
田んぼの復興はまだまだ時間がかかることを思い知らされました。最後は南蒲生浄化センターの近くまで行き、工事中の大型クレーンが動くようすを遠目で見ました。本格的な処理がはじまるまで45年かかるという鈴木さんの話を思い出しながら、汚水を少しでも減らすために私たちはどんなことができるのだろうかと考えながら学校に戻りました。
 沿岸部から離れている吉成小にいるとわからなかった復興への長い道のり、そして農業への誇りを持ち復興に取り組んでいる農家の人たちの思い。それを肌で感じることができた旅でした。

野菜の断面を描こう!
2012124日(火)
 吉成小学校6年生が野菜の断面を描く授業に取り組みました。
 用意された野菜は、萱場さんの畑でとれた仙台白菜や、曲がりネギ、タマネギ、ブロッコリー、キャベツ、パプリカ、ピーマン、ゴ―ヤ、カボチャ、そして七郷小学校の子どもたちが育てたヘチマです。ルーペでじっくりと観察すると普段気がつかない野菜のひみつが見えてきます。休憩時間にはとれたての白菜の試食をしましたが、普段生の白菜を食べることのない子どもたちが「甘くておいしい!」と言いながらパクパク食べているのには驚きました。完成した絵はみんなを励ますための絵なのでとてもカラフルで暖かい絵となりました。絵に詩をつける作業は後日の授業で行われ、完成した絵と詩は、荒井小学校用地仮設住宅と福田町の「みんなの家」に贈呈されたほか、堤町まちかど博物館の登り窯とメディアテークにも飾られました。
ルーペで観察して描きます
窓紙から見える部分を拡大します


1222日~23日、登り窯の中に展示

マガジンの完成報告会
201235日(火)
 これまで総合学習に取り組んで来た6年生が卒業間近となった35日、元気の出るマガジン完成報告会が吉成小学校で行われました。
この日お披露目されたマガジンは、「Happy Life」という題の8ページカラーの力作で、みんなの家館長の平山次雄さん、佐藤吉夫さん、佐藤はつみさんなど、これまでお世話になった復興に向けて頑張る人たちが取り上げられていました。
 子どもたちは、「登り窯の復活祭に参加したときの火入れ式を見て嬉しかった。元気の火を分けてあげたいと感じた。」「登り窯のライトアップされた様子をもっとみんなにみてもらいたい」「断面図を描くことで、改めて野菜の力を感じた」「元気が出るマガジンをつくっていたけど、自分たちが元気をもらったような気がします」など、1年間の成果を発表しました。
 子どもたちの発表や完成した作品には、震災で被害を受け立ち上がろうとしている現場や、頑張っている人に会いにいったり、自ら足を運んできた子どもたち一人一人の想いが詰まっていました。一回り大きくなった子どもたちの姿がありました。

発表のようす



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