2015年10月27日火曜日

JIA建築家大会「シンポジウム/子供×建築」参加報告&金沢の歴史的建造物巡り

2015916日(水)~17日(木)

 JIA建築家大会2015金沢(917日~919日)において開催された「シンポジウム/子供×建築」にネットワーク仙台が参加しました。

 このシンポジウムは、子どもたちが建築やまちづくりを学ぶ活動の実践実績を持つ建築家が集まり、各地での実践報告を通じて情報交換と交流を拡大させ、各拠点を連携する人のネットワークづくりの基盤を構築することをめざして開催されました。
会場の金沢21世紀美術館/シアター21には70名ほどの方々が集合。はじめに、今回参加できなかった稲葉武司先生(建築と子供たちネットワーク代表)からのメッセージが紹介されました。このなかで稲葉先生は、アン・テーラー博士のカリキュラム「Architecture and Children」を日本にはじめて紹介してから全国各地に建築やまちづくりを学ぶ活動が広がるまでの経緯と、JIAにゴールデンキューブ賞実行委員会が設置されて将来に大きな希望が見えてきたことなど、長年「建築と子供たち」活動を牽引してきた立場からの見解が示されました。

続いてネットワーク仙台からUIAゴールデンキューブ賞組織部門の最優秀賞を受賞した堤町の登り窯と南材木町の店蔵の復興活動と授賞式のようすについて報告。
その後、JIA各支部の活動発表として、①福岡市の小学校で毎年行われているまちづくりワークショップ(九州支部)、②兵庫県内の小学校や中学校で実施している「すまいまちづくり育成塾」(近畿支部)、③小学校、行政、地域と連携して、組み立て用段ボール教材などを用いた建築・空間をつくるワークショップ(東海支部)、④金沢城界隈のにぎわいづくりをテーマに、1年間にわたり調査、企画、設計、模型製作を体験してもらう「こども建築塾」(北陸支部)、⑤小学校と連携して材木とゴムバンドを使って「いえ」をつくる空間ワークショップ(関東甲信越支部)が発表され、各地で活動がますます盛んに行われていることを知りました。そしてネットワーク仙台からは吉成小での5年間の復興応援学習を発表しました。発表の最後にシャボン玉の動きを線で描いてもらう視覚言語のミニワークショップを実践。会場のあちらこちらから歓声があがり、建築と子供たちの手法の楽しさを会場の皆さんに体験していただくことができたと思います。

ネットワーク構築について話し合いました
発表の後は、鈴木賢一先生(名古屋大学教授)を進行役に会場参加者を含めてのディスカッションが行われ、今回のシンポジウムのように各地からの活動報告を聞いたり、情報交換したりする場を継続していくことが大切なのではないかという意見が出されるなど、今後どのようにネットワークを構築していくかについて活発な議論がなされました。


<金沢の歴史的建造物を訪ねて>
 シンポジウムに先立ち金沢市内の歴史的建造物を巡りました。旧県庁舎をリニューアルしたしいのき迎賓館陸軍兵器庫だった建物を再利用した石川県立歴史博物館、金沢城公園では伝統木造工法で復元された菱櫓・五十間長屋・橋爪門続櫓・橋爪門と今年往時の姿が再現整備されたばかりの玉泉院丸庭園などです。そのなかで特に印象深かったのは、「茶論 花色木綿」、「金沢市民芸術村」、「金沢職人大学校」の3つの建物です。

<茶論 花色木綿:金沢市西町4番丁176
玄関にかけられたのれんと水引飾り
花色木綿は金澤町家を活用したコミュニティカフェです。オーナーがネットワーク仙台の会員のご家族というご縁もあって、定休日(営業日:土日月 午後1時~5時)にもかかわらずオーナーのご好意で今回の訪問が実現しました。金澤町家とは、武家屋敷、足軽屋敷、町家、近代和風建築など昭和25年以前に建てられた木造住宅の総称で、市内に約6千軒あるそうです。花色木綿はそのうちのひとつで、建築後85年は経過しているだろうとのこと。木造2階建て平入りの建物で、玄関にはオーナーの書による「花色木綿」と染め抜かれた素敵なのれんと、金澤町家の目印として金沢伝統の水引細工の飾りがかけられていました。玄関に入ると左手にカウンター席、その奥に畳敷きの和室があり、そこに昔懐かしいちゃぶ台が置いてありました。ちゃぶ台を囲んで加賀棒茶をいただくと、穏やかでゆったりした時間が流れていくのを感じることができました。

ちゃぶ台が置かれた和室
オーナーから、「金澤町家巡遊ショップマップ」、「ひと・わざ・暮らしの町家祭り 金澤町家巡遊2015」(919日~23日開催)のちらしをいただきました。マップには、カフェ、ギャラリー、菓子店、居酒屋、骨董店など様々な用途の店舗に活用されている町家90軒が紹介されています。このように多くの町家が保存活用されている背景には、金沢市と関係団体が連携して所有者と購入・借家希望者を登録して金澤町家の流通促進を図る制度や、外観修理・構造整備・設備改修・伝統材料を使用した内部改修への補助制度、NPOによる啓発活動など、官民挙げての様々な取組みがあることを知りました。また、町家祭りのちらしには、ためしに町家に住んでいただいた方々による「おためし結果」の発表会や町家の見学会などおもしろそうな企画が満載。今度はもっとゆっくり滞在して金澤町家を巡ってみたいと思いました。

ゴツゴツした赤レンガが歴史を物語っています
<金沢市民芸術村:金沢市大和町11
金沢市民芸術村は、「演劇・音楽・美術活動等の練習の場にする」をコンセプトに、旧大和紡績金沢工場の倉庫群(1923年~1927年建築)を再生して金沢市が1996年に設立した市民の芸術文化活動を支援する施設です。1993年、金沢市が工場跡地を買い取り、敷地内にあった建物を取り壊して公園に整備することになったとき、取り壊し工事の視察にきた当時の市長の英断により、これら赤レンガ倉庫群が保存されることになったそうです。7棟の倉庫は今、マルチ工房、オープンスペース、ドラマ工房、ミュージック工房、アート工房、楽屋、レストランに生まれ変わっています。木造軸組みと赤レンガ外壁の構造をそのまま見せるデザインとなっていて、外部の赤レンガ壁の美しさとともに、内部の木造架構と赤レンガ壁が絶妙のコンビネーションを醸しています。

オープンスペースの木造小屋組み大加構
誰でも自由に入れるというオープンスペースでは、500㎡の空間を支える木造小屋組みの大架構が現れます。客席は階段状になっており、そこを登ると迫力ある架構を間近に見ることができました。

建物もさることながら、特筆すべきはその運営手法です。この施設では、暮れも正月もなく365日利用可能で、しかも早朝も深夜も問わず24時間利用できるというのですから驚きです。こうした運営は開村当初からで、公立文化施設では全国初の試みだったそうです。

<金沢職人大学校:金沢市大和町11
金沢市民芸術村の敷地の一角に金沢職人大学校があります。この施設は1996年につくられた新しい建物ですが、中身がすごい。金沢に残る伝統的で高度な職人の技の伝承と人材の育成を目的に設立され、石工、瓦、左官、造園、大工、畳、建具、板金、表具の中堅の職人たちが各業種組合により推薦され、働きながら3年間ここで研修生として学びます。修学を終えた研修生には、講義や実習を通して修復に関する知識や技能を学ぶ修復専攻科という道が用意されていて、専攻科修了後は金沢市長より「歴史的建造物修復士」の認定証が授与され、その技術が金沢の歴史遺産継承に生かされます。ちなみに学費は無料で、年間約6千万円の運営費はすべて金沢市が負担しているとのことでした。

左官科の実習作品
職人大学校外観
今回の旅は短い時間でしたが、歴史あるものを後世に残していきたいという金沢の人々の熱い想いに触れることができました。そのエネルギーを少しでも吸収して私たちの活動に生かしていければと思います。


*参考文献:

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